はじめに
仏壇についてお話をする前に、知っておいていただきたいことがあります。それは、仏教をはじめたお釈迦さまの教えが、死者をとむらうことよりも、生きている人がいかに生きるべきかを示しているということです。むしろ、かたちだけの先祖供養をするよりも、残された人が真剣に生きることのほうが大切であると説きました。
お葬式や法事といった、人が亡くなった後の仏事は、残された人が死者から学ぶためのものかもしれません。「私はもう死んでしまいました。私の葬式に来ていただいた皆さん。あなた方にはまだ時間があるのですよ。悔いの残らないように生きてください」と。
お仏壇に供えるもの
臨済宗妙心寺派の例
宗派によって違いますので、かならずご自分の家の菩提寺にご確認ください。少なくとも、「香炉(線香立て)」と「燭台(ロウソク立て)」、「花瓶(花立て)」が必要だと思います。これを「三具足(みつぐそく)」といいます。燭台と花立てを左右一対ずつそろえると「五具足(ごぐそく)」になります。一般に、三具足で十分です。
臨済宗には、とくに決められたまつり方はありませんが、基本的なものを示しておきます。まず、仏壇の最上段の中央にご本尊(ほんぞん:仏さま)を安置します。臨済宗には、浄土宗の阿弥陀如来のような特定のご本尊というものはありません。一般に釈迦如来がまつられていることが多いですが、それ以外でもかまいません。
次の段にお位牌(いはい)を安置します。一般的に、時代の古いご先祖さまのお位牌を、向かって右から安置していきます。新しい位牌や、親せきなどの縁者のお位牌は左のほうにまつります。もちろん、仏壇の大きさによって、このようにできない場合は、本尊さまの向かって左側の空いているところに位牌を置いてもかまいません。
仏壇の中段には、仏飯器(ぶっぱんき)と茶湯器(ちゃとうき)を置きます。さらに、場所に余裕があれば、左右に高杯(たかつき)を置き、くだものやお菓子などをお供えします。
一番下の段には、三具足(香炉・燭台・花瓶)を置きます。仏壇が小さいときは、経机(きょうづくえ)に三具足を置いてもかまいません。そして、仏壇の前に経机を置き、線香入れやマッチ消し、鈴(りん)などを整理して置きます。経机がない場合は、仏壇の一番下の段を整理して置きます。木魚(もくぎょ)は経机の向かって右側に置きます。
焼香するために香炉があれば、普段はしまっておいて、焼香炭と一緒に、必要な時(法事など)に取り出せるようにしておきましょう。焼香の時に使う「きざみ香」も、減っていないかチェックしましょう。
このような並べ方は、あくまで一例にすぎません。とにかく、あまり雑然としていなければよいと思います。
お供えの意味
お仏壇にお供えするものには意味があります。
◎香炉……線香を立てたり、焼香をするものです。「香」は、よごれたものを清らかにすると考えられており、自分自身の心のけがれをはらうために香をたくといわれます。
◎燭台……ロウソク立てのことです。ロウソクは灯明ともいいます。どんな暗やみでも照らし出すという「ほとけの智慧」をあらわしています。
◎花立て……花は見た目に「はなやかなもの」ですが、どんな花も種子のときは小さく、目立つものではありません。しかし、どんな種子でも水を与え、来るべきときがくればしっかりと花を咲かせることから、仏教では耐えしのぶことの大切さを説いています。
◎水……水はすべての生き物に必要なものです。よごれを落とすだけでなく、命を生み出す力も持っています。
仏さまのご飯
仏さまに供えるご飯を「霊供膳」(「りょうぐぜん」「れいくぜん」などと読みます。)といいます。宗派やお寺によって多少異なりますが、臨済宗はおおよそ以下のとおりです。ふたを取ってお供えします。お膳の向きは、仏さまに食べていただくように、箸(はし)のあるほうを仏さまに向けてお供えします。
●親椀(おやわん)……ご飯を山に盛ります。
●汁椀(しるわん)……みそ汁ですが、具には、ねぎなどのにおいの強いものはさけましょう。
●平椀(ひらわん)……一般に五種類の野菜を使った煮物を盛り付けます。
●高坏(たかつき)……あえものや、たくあんなどのつけものが一般的です。
●壺椀(つぼわん)……豆やゴマ豆腐などを供えます。